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実例で学ぶ!ステンレスのエッチング加工

エッチングされたステンレス

高い強度や耐食性を始め、優れた特徴を多く持つステンレス。エッチング加工とステンレスの相性はとても良く、エッチング加工で作るステンレス製品は一般雑貨や装飾品から電子部品、自動車部品など幅広い分野で用いられています。

今回は「エッチング」×「ステンレス」の基本的な特徴や魅力、そして実際の活用例について紹介していきます。

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材料倉庫にはステンレスがいっぱい

当社で一番多くエッチング加工に使用している金属材料が「ステンレス」です。 日常生活でも良く耳にする単語かと思いますが、じゃあ「ステンレスって何?」と訊かれた時、すぐに答えられる人は少ないかも知れません。

ステンレスとは?

エッチングされたステンレス

実は「ステンレス」は略称で、正式名称は「ステンレス鋼」です。JIS名称で「SUS」とも呼ばれ、こちらは「Steel Use Stainless」の略となっています。 ステンレス鋼は「クロム含有量が 10.5 %以上、炭素含有量が 1.2 %以下の鋼」として国際的に定義されており、添加されたクロムが表面に「不働態被膜」を形成し、錆びやすい鉄の成分を保護することでステンレスの最大の特徴である高い耐食性を持たせています。 また、クロム以外の様々な元素を加えることで様々な性質を持たせたステンレスがたくさんあります。

ステンレスのエッチング加工

エッチングされたステンレス

エッチング加工はフォトリソグラフィによる精密なマスキングと化学薬品による金属の溶解作用を組み合わせ、材料を選択的に除去する加工方法です。 ほとんど全てのステンレスはエッチング加工に適しており、精度、形状ともに良好な仕上がりが期待できます。例えばステンレスの一種である「SUS304」は硬く、粘りが強い為、切削加工性の悪い「難削材」に分類されますが、エッチングであれば容易に加工することができます。 加工時に大きな力や熱が掛からない為、箔レベルの薄い材料でも加工変形のリスクを軽減でき、複雑な形状の加工も短納期、低イニシャルコストで実現します。 当社でよく使用するステンレス鋼としては磁石に付くSUS430、磁石に付かないSUS304の2種が最も多く、共にエッチングでの加工性に優れ、価格的にも(ステンレスの中では)手頃、入手可能な板厚のラインナップも豊富と、とても使い勝手の良い材料です。

  • 1.材料

    1.材料

    主にステンレスや銅などの金属材料が加工対象です。加工前に表面の汚れを綺麗に除去します。

  • 2. レジストラミネート

    2. レジストラミネート

    材料の裏表にフォトレジストをラミネートします。

  • 3. 露光

    3. 露光

    フォトマスクを被せて光(UV)を当てます。遮光されていない部分のフォトレジストが感光しフォトマスクのパターンが転写されます。

  • 4. 現像

    4. 現像

    感光しなかった部分のレジストを薬品で除去します。(ネガ型レジストの場合)必要な部分のみマスキングされた状態になります。

  • 5. エッチング

    5. エッチング

    金属を溶かす薬品(エッチャント)をかけます。マスキングされていない部分が溶け、穴が開いていきます。

  • 6. 剥離、洗浄、検査、出荷

    6. 剥離、洗浄、検査、出荷

    レジストを剥離し、洗浄します。断裁作業、検査を経て出荷、または各種二次加工工程に進みます。

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一番多くエッチング加工しているのはSUS304です

SUS304はオーステナイト系ステンレスの一種であり、多くの用途で利用されています。 主な特徴としては、

耐食性:SUS304はクロムとニッケルの含有量が高いため、優れた耐食性を有しています。これにより、酸や食品酸性に対して強い耐性があり、腐食やさびに対しても比較的耐久性があります。

耐熱性:オーステナイト系ステンレス全般の特徴として、高温下での強度低下が少なく、耐熱性も良好です。また対低温性もあり、極低温下での使用でも脆化を伴いません。

加工性:SUS304は冷間加工に適しており、簡単に成形できます。これにより、様々な形状や製品に加工されることがあります。一般的な加工方法には押し出し、鍛造、切削、溶接などが含まれます。

非磁性:SUS304は一般的に非磁性材料であり、磁石に引き寄せられません。この性質は、一部の特定の用途(例: 電子機器製造)で重要とされます。

美観性:表面仕上げが容易で、美観的な外観を持っています。これにより、建築やデザイン製品などで利用されることがあります。

これらの特徴により、SUS304は様々な分野で使用され、特に食品産業、化学プラント、建築、医療機器、キッチン用具などで広く利用されています。

ステンレスの選定基準

異なるステンレス鋼の選定は、使用される環境や要件に大きく依存します。以下に、SUS304、SUS301、SUS430、およびSUS316の一般的な用途別選定基準を示します。ただし、これらは一般的な目安であり、具体的な要件や環境によって変わる可能性があります。

SUS304の用途別選定基準

一般構造部品: SUS304は一般的な構造部品や建築材料として広く使用されます。

食品産業: 食品加工機械やキッチン用具など、耐食性が求められる用途で利用されます。

一般機械部品: 機械部品やボルト、ナット、スクリューなどにも適しています。

SUS301の用途別選定基準

高強度要件: SUS301は強度が高いため、ばねや高強度の部品として使用されることがあります。

精密部品: 高硬度と高い強度を持つため、精密機器や医療機器の部品として利用されることがあります。

SUS430の用途別選定基準

低価格要求: SUS430は一般的に他のステンレス鋼に比べて低価格であるため、コストを抑えた製品に使用されることがあります。

磁性要求: 磁性が強い特性を持つため、磁石を使用する製品や装置に適しています。

SUS316の用途別選定基準

高耐食性要求: SUS316はモリブデンを含むことから耐食性が高く、海洋環境や塩分の多い場所での使用に適しています。

高温および腐食環境: 高温および腐食の影響を受ける環境での使用に向いています。医療機器や化学プラントなどで利用されます。

ステンレスのエッチング性

エッチングされたステンレス

SUS304はエッチング加工性の良いステンレス鋼で、当社で最も多く用いる材料の一つです。 特にエッチング加工用に調整された「板厚精度が良い」「金属粒子が細かい」「ハーフエッチングしても反りにくい」材料を各メーカーが開発、販売しており、当社が通常使用しているSUS304も多くはこのようなエッチング用のものです。 「板厚精度が良い」ことと「金属粒子が細かい」ことはいずれも良好な精度、形状でエッチング加工する為の重要な要素となります。 板厚のラインナップが豊富なのも特徴で、当社では0.03~0.1mmまでは0.01mm刻み、そこから0.3mmまでは0.05mm刻み、更に1.0mmまでを0.1mm刻みにて常時在庫しています。 エッチング後の二次加工、例えば溶接や拡散接合による貼り合わせ、曲げ、めっき等の表面処理などについても技術的に確立されており、豊富な実績がございます。 良好なバネ特性とエッチング加工性を活かし、当社オリジナルのCCMTではワーククランプ用のバネ板部材として活躍しています。

他の加工技術との比較

金属エッチング プレス加工 レーザー加工
納期 比較的早い 金型の納期に依存 少量であれば非常に早い
量産 可能だが少量〜中量生産向き 大量生産向き 不向き
コスト(少量生産の場合) イニシャルコストが安く、
少量生産でも安価
金型費用が必要なため高価 ごく少量は安価
コスト(大量生産の場合) 量産効果によりコストは
下がるがプレスには劣る
大量生産時は低コスト 量産効果が出しづらく
コストが下がりにくい
イニシャルコスト(金型・治具) 安価なフォトマスクを使用 高価な金型が必要 イニシャルコストは
不要なことが多い
板厚 材料、形状によるが
0.03〜2.0mm程度
材料、形状によるが
0.03〜5mm程度
材料、形状によるが
0.1〜0.6mm程度
バリ・歪み 原理的に発生しない 発生しやすい バリ、ドロスが発生しやすい
デザインの変更 原版の再作成により
比較的短時間、低コストで対応可
金型の修正や再作製が必要となり
長い時間と高額な費用を要する
データ修正により
短時間、低コストで対応可
微細・多穴加工 加工特性上、非常に得意 金型が非常に高額となる為、
不向き
歪み、変形が生じやすく、
不向き

 

事例紹介

よくある質問

Q.

ステンレスとエッチング加工の相性は良いですか?

A.

ステンレスはアルミなどに比べて硬く粘りが強いことから切削加工等では敬遠されますが、化学的に処理するエッチングとの相性は良好です。

Q.

エッチング加工できるステンレスの厚みはどのくらいですか?

A.

当社では0.03mm程度の箔材から、2mm程度の厚板まで対応しております。

Q.

ステンレスの種類によって加工精度は変わりますか?

A.

一般的なステンレスであれば加工精度はほぼ同等ですが、チタンやモリブデンの含有量が増えると精度、形状ともに悪化します。

Q.

メーカーオリジナルのステンレスをエッチング加工することはできますか?

A.

ほとんどの場合可能ですが、テスト加工が必要です。テスト加工は無償にて対応します。お気軽にお問い合わせください。

Q.

自社保有のステンレスを支給してエッチング加工してもらうことはできますか?

A.

ご支給材への加工も承りますが、テスト加工が必要です。テスト加工は無償にて対応します。お気軽にお問い合わせください。

Q.

ステンレスはいつ、どのように発明されましたか?

A.

ステンレスは、1913年にイギリスの冶金学者ハリー・ブリタニアによって発明されました。ブリタニアは、クロムを鉄鋼に添加することで、鉄を錆びにくく耐食性の高い材料に変える方法を発見しました。

Q.

ステンレスを使用するデメリットはありますか?

A.

アルミと比べて重い、アルミや銅と比べて熱伝導性が悪い、鉄と比べて高価、などが挙げられますが、それらが実際にデメリットになるかどうかは用途次第です。

Q.

ステンレスに磁性のあるものと無いものがあるのはなぜですか?

A.

オーステナイト系のステンレスは一般的に非磁性ですが、これは成分に含まれるニッケルが鉄の磁性を阻害する為です。

Q.

ステンレスは拡散接合できますか?

A.

ほとんどのステンレスは拡散接合できます。但し、異なる種類のステンレスを接合すると大きな反りが発生してしまいます。

Q.

ステンレスへの表面処理は可能ですか?

A.

メッキや研磨、梨地処理など、様々な表面処理に対応可能です。

Q.

ステンレスへのレーザーマーキングは可能ですか?

A.

表面の光沢の違いにより見え方に多少の差が生じますが、一般的なステンレスであれば対応可能です。

Q.

ステンレスの曲げ加工は可能ですか?

A.

可能ですが、硬いステンレスは曲げると割れることがある為、曲げ加工をする場合は1/2Hや1/4Hなどの柔らかいものをお勧めします。

まとめ

様々な優れた性質を持つステンレスの用途は今後ますます広がっていくものと思われます。そしてそのステンレスを精度良く加工することのできるエッチングの出番もますます増えていくことでしょう。
他の加工方法では対応できないような複雑で微細な形状もエッチング加工であれば案外簡単に実現できる、という事例がこれまでにも多く見られました。 ステンレスの加工でお困りの際は是非お気軽に弊社までお問い合わせください。

 

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